やっぱり「運動不足」。

年を取ると膝や腰などに痛みが起こるのは決して特別なことではありません。
筋肉が硬くなったために起こる「筋肉の老化病」です。

「さぼる筋肉」、「遅刻する筋肉」が原因の1つ

筋肉はそれぞれが決まった方向に動いています。そして動作(運動)は、いくつもの筋肉が同時に働き、いつくもの筋肉がタイミングを合わせて活動することでスムーズな動作ができるのです。しかし、60代ともなれば、筋肉が硬くなってしまい、さぼったり、スタートが遅くなる筋肉が増えていきます。1つでも2つでも筋肉が硬くなり、痛みがでないまでも動作は鈍くなります。このように動作の老化現象というのは、筋肉の衰えに加えて、動作に必要な筋肉が硬くなり、さらに一斉に動かなくなることが原因なのです。

「夜中のトイレ」も運動で解消

夜中の頻尿は、血液をカラダ全体に巡らせるポンプの働きの低下からおこります。血液をカラダ全体に巡らせる心臓のポンプと筋肉を伸縮することによる筋ポンプです。それらが加齢により衰え、そのため血液循環が弱まり、血液中の老廃物を腎臓で処理されにくくなります。日中は重力の影響も受け血液が流れにくいのですが、寝るとカラダが水平になって重力の関係がなくなるので血液循環が良くなり、膀胱に尿がたまります。日中に適度な水分摂取と運動を行うことで、腎臓の処理と排尿は順調に行われるようになります。

認知症も運動で予防・軽減!

高齢になると、認知症も多くなります。認知症についても運動をすることで予防や軽減することが出来ると言われています。1日2マイル(約3.2km)を歩いている人と歩いていない人、それぞれ約20人を20年ほど経過追跡した調査によると、「歩いていない人は歩いている人より42%も多く認知症になった」という報告があります。

国際医療福祉大学大学院 教授 竹内 孝仁先生

1941年東京に生まれる。66年日本医科大学卒業。日本医科大学教授(リハビリテーション科)を経て、04年より国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉研究科)。この間73年より特別養護老人ホームに関わり「離床」「おむつゼロ」などを実践。80年代後半より高齢者在宅ケア全般に関わる。著書に、「認知証のケア―認知症を治す理論と実践」(年友企画)、「驚異のパワーリハビリテーション」(年友企画)、「介護予防の戦略と実践」(年友企画)、「医療は『生活』に出会えるか」(医歯薬出版)、田原総一朗・竹内孝仁共著「認知症は水で治る」(ポプラ社)などがある。

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運動不足が引き起こす問題

運動不足により介護のリスクが高まる

最大35%の筋肉がなくなる

特に運動をしていないと、加齢とともに筋肉は萎縮硬直化し、筋力もなくなり日常生活に影響をおよぼします。たとえば、膝や腰の深刻な痛みを抱えたり、家の中でつますいたり、布団の上げ下ろしが困難になるなどです。

さらに、全体に衰弱が進み、フレイル(虚弱)に陥ります。筋肉は運動をしていないと30歳前後からなくなっていきます。個人差はありますが、年に0.5%~1%なくなると言われています。30歳から35年間運動をしないと最大35%の筋肉がなくなります。

このように、筋肉の萎縮や硬直化が進むと、「骨折転倒、関節疾患、高齢による衰弱」を招き、要介護の原因の35%を占め、第1位となっています。

さらに、運動不足や生活習慣の乱れなどで肥満になるとメタボリックシンドローム(*2)を誘発します。
メタボになると動脈硬化の危険が高まり、血管が詰まったり、破れやすくなります。その結果、脳卒中(脳血管障害)や心筋梗塞などを発症させるなど、介護へのリスクも一層高くなります(図1参照)。

(*2)メタボリックシンドローム(メタボ内臓脂肪症候群)とは:内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、脂質異常を2つ以上あわせもった状態をいいます。

図1
(図1)
高齢者が要介護になる主な原因
平成22年度国民生活基礎調査より作成

コレステロール含量の多いプラークは破れやすく、できた血栓によって心臓の血管が完全につまると突然死の危険性がある。

図2
(図2)
メタポリックシンドロム→血管の劣化(動脈硬化の進行)

筋肉の減少がフレイルを招き、要介護へ

フレイルの判断基準

  1. 体重減少
  2. 主観的疲労感
  3. 日常生活活動量の減少
  4. 身体能力(歩行速度)の減弱5筋力(握力)の低下
  5. 筋力(握力)の低下

フレイルは運動で予防できる

フレイルとは、日本老年医学会が提唱した考え方で、老化とともに自然にあらわれる現象です。普段の生活で極端に動かなくなり、ゆっくりとしか歩けず、握る力も衰え、いわゆる行動体力が低下して行きます。さらに、寒暖の変化やウイルスの侵入などの外部へのストレスに対する抵抗力=防衛体力も低下します。その結果、全体的に予備機能(体力)が低下、ちょっとした病気でも要介護へと移行してしまうのです(図3参照)。

図3
(図3)
軽度疾患による影響とその後の回復過程

フレイルになると、常に体力が低下した状態なので、尿路感染症のような軽度疾患でも回復への期間は長引き、要介護になる可能性も高くなります。

フレイルになると基礎代謝が減り、消費エネルギー量も少なくなるので食欲が低下します。それが低栄養を引き起こし体重を減少させ、体力や筋力を低下させ、閉じこもりや認知機能の低下などの社会的精神心理的問題にもつながります。このように、フレイルは連鎖的に進行するフレイルサイクルになり、要介護になりやすくなってしまいます(図4参照)。

図4
(図4)
フレイルサイクル

(*3) サルコぺニア(加齢性筋減弱症)とは:「加齢に伴う筋力の減少、又は老化に伴う筋肉量の減少」を言います。

フレイルの主な原因は筋肉が少なくなることです。その予防法には、有酸素運動や筋トレなどを含んだ運動が効果的だと言われています。筋肉は、運動をすれば年をとっても増えます。また、運動には達成感、充足感などの精神的·心理的な効果もあり、積極性の向上に結び付くと言われています。さらに、仲間もできて社会参加も広がります。

出典:「平成27年度スポーツ・レクリエーション指導者養成講習会 スポーツ・レクリエーション生理学」資料 京都府立医科大学博士研究員 渡邊裕也(図2/図3/図4)

年々増え続ける高齢者、約4割が運動不足

2060年には4人に1人が高齢者

内閣府が発表している「平成27年版高齢社会白書」によると、わが国の高齢化は今後一層進展し、2060年には39.9%に達し、国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計しています。また、2015年では高齢者l人に対して現役世代2.3人で支えるのですが2060年になるとl.3人となり、医療•介護の負担もいまの倍近くになると推測されています。元気な高齢者をいかに増やしていくかが大きな課題となり、スポーツを通じた健康寿命(*4)の延伸が鍵になります。

国は、「成人の週1日以上のスポーツ実施率が3人に2人(65%程度)、週3日以上のスポーツ実施率が3人に1人(30%程度)となる」ことを政策目標としています。しかし、平成27年度の調査で、週1日以上のスポーツ実施率は60歳~69歳で51.7%、70歳以上で58.6%となり、60歳以上のシニア•高齢者で約4割~5割の人が運動をしていない現状があります(図5参照)。

(*4) 健康寿命とは:健康上問題のない状態で日常生活を送れる期間のことで、2013年では男性71.19歳、女性は74.21歳。

図5
(図5)
週1日以上の運動・スポーツ実施率

元気づくりの啓発型講座の参加者の大半がすでにスポーツを行っている人たちでスポーツ末実施者をいかに参加させるかが極めて重要となっています。

出典:内閣府、文部科学省「体力・スポーツに関する世論調査(平成18,21,24年度)」及び「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査(平成27年度)」より作成

スポーツ未実施者の参加をすすめる!

運動スポーツを通じた元気づくりの啓発型講座として実施した、文部科学省委託「高齢者の体力つくり支援事業」の参加者アンケートによると、7割以上の人がすでに週1回以上、運動・スポーツに親しんでいる人という結果でした(図6参照)。スポーツ未実施者の参加を得るためには、従来の「興味のある人が見る呼びかけ方法(チラシ配布や広報への掲載、掲示板や回覧板など)」だけでは困難であることが分かりました。

図6
(図6)
ニューエルダー元気塾参加者のスポーツ実施率

そこで、参加したい人はこの指とまれ!という「待ち状態」の広報ではなく、こちらから高齢者が集う場に出向き「積極的にお誘いする」という新たな参加呼びかけが必要になるのです。運動・スポーツの実施による体の変化に気づくことや体の不調改善を実感することなどを通じ「自分事」として捉えてもらい、参加につなげていきます。

出典:平成25年度ニューエルダー元気塾参加者アンケートより